カラー版 裏山の奇人 野にたゆたう博物学

カラー版 裏山の奇人 野にたゆたう博物学
カラー版 裏山の奇人 野にたゆたう博物学
定価1,540円(本体1,400円+税)
発売日:
※価格、発売日は紙書籍のものです。
  • 発行形態 :新書
  • ページ数:344ページ
  • ISBN:9784344987364
  • Cコード:0295
  • 判型:新書判
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作品紹介

昆虫界を震撼させた伝説の名著、復刊。
身近な自然を舞台に、奇怪な人間が奇怪な虫の謎を解く。


異常なまでに虫を愛する姿から「裏山の奇人」と綽名される著者。
長野の裏山で13年間、誰も気に留めないような小虫を観察・研究し、数々の新発見を成し遂げた。
アブラムシを刺した謎のハチの正体は?
ツノトンボはなぜ突如上空に飛びあがる?
アリの行列を押しのけてカイガラムシの甘露を盗む毛虫がいる!?
わからないことを、わかりたい――
気鋭の昆虫学者が、幼少期から青年期までに出会ってきた国内外の奇怪な生き物の生態を綴る。
昆虫界でカルト的人気を得た伝説的名著の復刊。

●アリは仲間と違うにおいのものを殺す攻撃的な生き物
●ハチがアリ地獄の主を狩る!? 人類の誰も見たことのない光景を目撃
●森を掃除する糞転がしは天気予報もしてくれる
●幻のアリを発見した帰路、キツネとタヌキの舞踏会に遭遇
●日本初! 珍虫ケカゲロウの羽化に成功
●貧乏が生んだ研究の工夫「己の肉体を餌にしよう」
●恋い焦がれ続けたペルーの美麗なハエを追う

はじめに

幼いころの記憶というのは、年月が経つにつれて「古い宮殿の礎が次第に土砂に埋没するように」消えてしまうものである。

しかし、そんな記憶のうちでもなぜか特定の事柄については、断片的によく覚えている。そんなことは誰しも心当たりがあるのではないだろうか。

私の脳裏には、そんな断片的な記憶が、いくつも束ねられて保管されている。

不思議なことに、それらはすべて生き物に関する記憶である。

家ではじめて嫌いな野菜を我慢して食べた瞬間、それを待ちかねたように庭先で高らかに鳴いたカエルのこと。

母に手を引かれて歩いた散歩道で、陽炎の燃え立つ路上の向こうをよぎったイタチのこと。

そして、庭先の石を裏返してアリの巣を暴いたとき、逃げまどうアリどものなかに見つけたコオロギのこと。

それらすべてがどうでもいいようなことばかりなのに、脳が忘れることを許さなかった。

そんな体験から30年近く経ったいま、何の因果か私は生き物の研究をして生活している。

私は幼少期から、自分はたぶん虫の研究者として生きていくのではないかと、うっすら予想していた。それは言い換えれば、当時すでに将来の自分が生き物の研究以外のことをして生きている姿が、まったく想像できなかったからである。


それほどまでに、私は幼いころから生き物が好きだった。

ただし、私は犬や猫、パンダや象など、テレビや本によく登場してみんなから愛される生き物は好きになれなかった。

当時、それらの生き物は身近な場所で見ることができず、遠い別次元の存在に思えて親近感が湧かなかったのである。

いわゆる「会いに行けるアイドル」ではないが、身近にいる何の変哲もない(そしてなぜか多くの人間が嫌がる)小さな生き物のほうが、私にとってはずっと愛すべき対象だった。

そして、当時はいまとは違って、そんな身の回りの小さな生き物のことを調べられるような、子供向けの本がほとんどなかった。

だから、近所の道端や裏山で見つけた虫が一体何者なのか、何をしようとしているのか。いまの子供なら、インターネットで即座に調べられるようなことさえ、さっぱりわからなかった。

それが余計に、私を魅了した。「わからないことを、わかりたい」という、研究者を研究者たらしめる原動力が、このときに宿った。

そのため、いつもヘビやムカデやクモを嬉々として近所で捕まえて、家に連れて帰っては家族のひんしゅくを買ったものだった。

そこに端を発するように、私は次第に周囲の人間たちとは異なる思考や言動を持つことに、一種のステータスのようなものを覚え始めた。

デコレーションケーキよりカルピスの原液を寒天でただ固めたもの、洋楽やJポップよりパソコンゲーム(18歳未満購入禁止)主題歌のほうが、断然いい。

気がついたときには、私は周囲の「普通」の人間たちからいちじるしくズレた価値観と常識を持った、奇怪な生き物となりはてていた。

本書はそんな奇怪な生き物が身近な裏山、はては異国のジャングルに住むもっと奇怪な生き物たちと出会い、戦い、そして愛し合った日々をつづった物語である。

私の書く文章にはたびたび「擬人化」という、本来研究者を名乗る者が使ってはならない表現技法が出てくる。

これに違和感を持つ読者もいるかもしれないが、しかし、私は『シートン動物記』の「ギザ耳坊や」の冒頭の言葉を借りて、この本のなかに登場する生き物たちが実際に私に言わなかったことは、何一つ書いていないことを断っておきたい。

なお、本書の原稿は、私が信州大学の研究員として長野県松本市に在住していたときに書かれたものである。

そして、本書で使用されている霊長目ヒト科以外のすべての生き物の写真は、例外なく著者の撮影によるものである。

目次

はじめに

第1章 奇人大地に立つ 

幼年期 
 第三種遭遇――アリヅカコオロギの話 
 鷺サギと甲虫の思い出――コブスジコガネの話 
 右の肩を叩くもの――アシナガバチの話
 コラム●祖母の珍言 

義務教育課程以後
「虫採り」から「昆虫採集」へ――いろんな蝶類の話
 金色の僕――スズメバチの話
 5時からシャンタク鳥――コウモリの話
 愚者の実験――スズメの話

第2章 あの裏山で待ってる 

小松友人帳
 詐欺まがい作戦――カエルの話
 コラム●地元と生き物
 異形の戦士――アリグモの話
 あかつきの奇跡――ミノムシの話
 黄色い紙飛行機の怪――狩人蜂の話
 田んぼの決闘――狩人蜂の話その2
 痛烈なる逆襲――狩人蜂の話その3
 闇夜の灼眼――ツノトンボの話
 地底からの使者――ヒミズの話
 聖獣の夜――野ネズミの話
 沈黙のとき――テンの話
 再会のとき――ヤマネの話
 コラム●偉大な先輩方
 奇人の眼力――ノミバエの話
 凜然なる闘い――カラスの話
 空を飛ぶもの――ノウサギの話
 コラム●ヒゲのジョージの教え

アリヅカコオロギの謎 
 悪魔将軍への接触
 蟋蟀を集めろ 
 引きずり出された秘密
 身の振り方は蟋蟀次第
 蜜月のスペシャリスト
 闘魂のジェネラリスト
 半端ものたち
 好きよ好きよも嫌いのうち
 コラム●アリの巣ほじって何になる
 世界征服への道、約束された勝利
 コラム●アリの巣ほじって何になる・セカンド

第3章 ジャングルクルセイダーズ 

東南アジアを征服せよ
 森の洗礼――刺すアリの話
 幻のビクター――アリ地獄の話
 賢者の予言――糞転がしの話
 町のなかでも宝探し――ツノゼミの話
 コラム●ツムギアリに勝つために
 コラム●熱帯で虫を採る

命に関わる話 
 疼くこの躰 
 ルルイエからの脱出
 コラム●待つ者のため、我帰る
 ボルネオの「死の森」 

南米を征服せよ
 地球の裏まで何マイル
 アリヅカコオロギのいない大陸
 彼女を謝辞に 

第4章 裏山への回帰

ポスドク迷走
 一筋の蜘蛛の糸
 こそ泥の驚異
 コラム●偉大なアリ研究者 

進撃の奇人
 奇怪な妖虫 
 月蜉蝣
 無知の無
 駒治安大昇鯉
 みるみる変わるその姿 
 異世界・魔界は家の裏 
 黒の行列に潜む影
 真・黒の行列に潜む影
 コラム●辛抱心棒ケチん坊
 コラム●目指せ未来の好蟻性昆虫
 月下円舞曲 
 忍び寄る侵略者 

神秘の欠片を集める旅 
 アリが結びし人の縁
 沖の太夫の羽の上
 まだ見ぬ「想い虫」 
 コラム●世界の好蟻性昆虫小図鑑 

第5章 極東より深愛を込めて 

かならずペルーに勝ちに征く 
 夢幻のスピット・ファイア
 ハエをミルンダ 
 置いてけ堀 
 Holaに力を分けてくれ
 帰らずの森と「紙」隠し 
 浮かぶ刻印
 劇団アマゾーン 
 契約の下、小松が命じる!
 コラム●混沌を切り裂く破滅の秒針 

熊楠になりたい 
 4人目の奇人 

あとがき 
新書版 あとがき 
引用文献

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